2章 まずはZFC公理を知る
2章の目的
小学校数学を始めるにあたり、ZFC公理を知る必要があります。ただ、ZFC公理そのものは本書の目的ではなく、あくまで出発点や道具としての位置付けです。そのため、本章ではZFC公理の一覧とその意味を知ることを目的とします。なお、より厳密な定義などはその他の書籍に譲ります(もしくは、本書で必要になったときに、最小限の定義をするものとします)。
ZFC公理とは
ZFC公理とは、集合が満たすべき性質(公理)を集めたもので、以下がその公理です:
- 外延性の公理
- 空集合の公理
- 対の公理
- 和集合の公理
- 無限公理
- 冪集合公理
- 置換公理
- 正則性公理(基礎の公理)
- 選択公理
ここで、ZFC公理の少し特殊な点があり、それは公理が素朴すぎることです。つまり、当たり前のことを論理式で難しく定義しているように見えて、結局なにが大事なのかがわかりにくいのです。そこで、ZFC公理の定義を説明するまえに、本書では"そもそもの前提"を明らかにしておきます。
本書の前提~集合宇宙~
ZFC公理を定義する前に、"そもそもの前提"を定義しておきます。それは、集合の集まりである集合宇宙があること、集合にはという操作ができることです。
まず、集合宇宙を仮定します。これは集合の集まりです。集合の集まりというと、当たり前のような、よくわからないような、という気がするかもしれません。ただ、以下を意識するとよいと思います:
- 自体は、集合ではない(詳しくは、章末コラム「集合宇宙は集合ではない」を参照してください)。
- は一つではない。特に、「全ての集合を集めたもの」ではない。例えば、私の考えると読者が考えるは同じとは限らないです(だからこそ、「そのの中に自然数があるのか?」を考える必要がある)。
- 本書で仮定するのは、集合宇宙が"ZFC公理を満たす"ということだけ。
次に、集合に対する操作を仮定します(より正確には、論理式です)。これは、一般的な「含まれる」の意味と同じです。集合宇宙の中の集合に対して、と書き、True/Falseのいずれかになります。こちらも注意点として、以下があります:
- 通常、とは書かない(集合宇宙が集合ではないため)
- と書いたとき、も集合である(集合宇宙の中にあるのは集合だけで、"要素"と"集合"のような区別がない)
以上が、本書の前提です。以降では、「集合宇宙の中の」ではなく、単に「集合」と書くものとします。
では、これからZFC公理の説明に入ります。なお、ZFC公理はあくまで本書の準備・道具という位置付けです。ある程度知っている読者は、今の段階では読み飛ばして、使うときにまた戻ってきて読んでもらっても構いません。
外延性公理
一つ目は、集合に対する等号の定義(公理)です。
一般的な集合の定義と同じで、との全ての元が一致する場合、とします。論理式で書くと、以下の通りです:
例えば、です(今時点では自然数を定義していないため、この例はあくまでイメージだと思ってください)。
note
等号の定義(公理)と濁して書きましたが、正確には公理であって定義ではありません。ただ、定義と区別できないくらい、外延性公理は当たり前のことを言っているとも思えます。 また、公理は満たすべき性質/前提であるので、ある人が「定義」と考えていても、結果的に外延性公理を満たしていれば問題ないかもしれません。
空集合の公理
元をもたない集合(空集合)が存在する。
これは、集合宇宙に少なくとも一つの集合があると仮定していると考えられます。
対の公理
任意の集合について、は集合である。
note
の場合、です。とは違います(これは、次節の和集合の公理で扱います)。
note
「 は集合である」と書きましたが、「集合宇宙の中にという集合が存在する」と書いたほうが正確かもしれません。
和集合の公理
任意の集合について、に含まれる集合の元を集めたものは集合である。
これを、和集合 と書くことにして、定義は以下となります:
note
集合の和 は集合になります。これは、和集合の公理に加えて、対の公理と組み合わせることで導くことができます。
対の公理から、が集合になるため、に和集合の公理を適用することでが集合になることが証明できます。
無限公理
次を満たす集合が存在する:
note
筆者は、無限公理はあまり直感的ではないと思います。ただ、無限公理の意味としてはシンプルで、「無限集合で"帰納的"な構造を持つ集合が存在すること」を仮定しているイメージです。もしくは、自然数を含む集合が存在することを仮定しているとも言えます。
なお、自然数との対応付けは、次章以降で扱う予定です。
冪集合公理
任意の集合について、その部分集合を全て集めたものは集合である。
以降では、部分集合を全て集めたものを冪集合と書くものとします。
note
集合がの部分集合であるとは、以下を満たすときを言います:
置換公理
論理式で記述できる集合の像は集合である。
ここで、「論理式で記述できる集合の像」の部分を説明します。
まず、2変数の論理式において、「一つのに対して、Trueとなるは多くて一つである」ことを仮定します。論理式で書くと、以下です:
note
この仮定は、写像を意識するとわかりやすいと思います。によって写像を定義するなら、がTrueとなるときにと定義することができそうです。がTrueになるは一つだけなので、像は一つに定まります(ただし、必ずが存在するわけではないため、写像として定義できるわけではありません)。
このとき、論理式で記述できる集合の像は、以下です:
置換公理では、上記の集合の像が集合であることを仮定しています。
note
論理式は「有限個の変数と論理記号で表せる式」です。 つまり、好き勝手に集合の像を作れるわけではありません。言い換えると、「有限個のルールで作れるものは集合である」というイメージです。
note
一般のZFC公理には分出公理が含まれることがあります。ただ、分出公理は置換公理から導出できるため、本章では省略します(必要になった場合、その時に証明します)。
正則性公理
空集合でない任意の集合は、自身と互いに素な元が存在する。
自身と互いに素とは、(共通部分がない)という意味です。
note
正則性公理は、循環構造も禁止しています。つまり、のような自分自身を元に持つ集合は存在しません。詳しくは、章末コラム「集合宇宙は集合ではない」を参照してください。
note
ちなみに、共通部分 も集合です。これは置換公理から導出できます。という論理式に対して、置換公理を適用することで、共通部分が集合であることがわかります。
選択公理
集合の全ての元が「空でない」かつ「互いに素」であるとき、全てのから一つずつ元を取ってきたような集合(選択集合)が存在する。
論理式で書くと、次のようになります。まず、 の仮定は以下です:
そして、選択集合が存在して、以下を満たします:
note
選択公理は、なんらかの選択集合があるということしか仮定していません。つまり、自由に要素を選択してもよいわけではありません。
まとめ
今回は、「ゼロから小学校数学」をするための準備として、ZFC公理の説明を行いました。
次回からは、いよいよ小学校数学の本題に入りたいと思います。