1章 小学校算数で自明でない部分とは?
1章の目的
小学校数学を始める前に、そもそも小学校で何を学んだかを振り返りたいと思います。その上で、どこが自明ではないのか、どこを証明しないといけないのかを考えていきます。
小学校算数を振り返る
みなさん、「小学校算数で習ったこと」を覚えていますか?
覚えているような、覚えていないような…という人が多いのではないでしょうか。まずは、学習指導要領を見ながら、小学校算数(数と計算)のカリキュラムを俯瞰していきます。
以下の表は、学習指導要領を基に、筆者が独自に作成した小学校算数のカリキュラムです。
| 学年 | 目的 | 概要 |
|---|---|---|
| 第1学年 | 数の概念と基本的な計算を学ぶ | 自然数 数の大小・順序 加法・減法 |
| 第2学年 | 四則演算の基礎を身に付ける | 加法・減法の性質 乗法、分数(1/2、1/3など)の導入 |
| 第3学年 | 数の範囲を広げる | 除法、小数、分数 数量の関係を表す式 |
| 第4学年 | より複雑な計算を学ぶ | 整数の除法 小数の計算 同分母分数の加法・減法 四則演算の性質 |
| 第5学年 | 分数・小数を発展させる | 約数・倍数 小数の乗法・除法 分数の意味 異分母分数の加法・減法 |
| 第6学年 | 小学校算数を完成させる | 分数の乗法・除法 文字を用いた式 |
出典:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編』図1(pp.12–15)を参考に筆者作成
なお、はじめにで書いた「スコープ」の通りで、以下の点は学習指導要領から意図的に変更しています:
- 学習指導要領の「数と計算」のみを対象としている
- 「数を数える」「十進位取り記数法」「そろばん」など、本書では扱わない内容は概要から外していること。
小学校算数を振り返ってみて、どう感じましたか?
数は、自然数→分数や小数と発展していきます。計算は、足し算と引き算→乗法→除法と、四則演算を一通り学習しています。
これらは簡単な内容でしょうか?それとも、意外と複雑なことをやっていると思いますか?次節では、どこが自明ではないのか、つまり「小学校数学で証明するべき部分はどこか?」を考えていきます。
自明でない部分はどこか?
上記の小学校算数のカリキュラムを見たときに、どこが自明ではないのでしょうか?
本書での考え方は、「無限を扱ったら要注意」です。
基本的には、全て定義や証明が必要ではあるのですが、特に無限の操作は要注意です。
例えば、自然数は無限にあります。つまり、ほぼすべての土台である自然数に対しても要注意です。
自然数={0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,....}
とはいえ、これを記号の羅列だと思えば、自然数自体はある程度自明です(実際、ZFC公理から構成するときも、比較的簡単です)。
一方で、足し算となると、さらに複雑になります。
0+0=0,
1+0=1, 1+1=2, 0+1=1
2+0=2, 2+1=3, 2+2=4, 1+2=3, 0+2=2
…
こちらも無限個の組があります。
仮に自然数が有限個なら、上記の通り、足し算を羅列すれば、ほぼ自明に定義が可能です。ただし、無限個なので、注意が必要です。
素朴に考えると、10進数表記で筆算することを考えれば、"アルゴリズム的に定義"ができそうです。
123
+567
----
690
各桁は0~9の足し算で記述できていて、有限回の操作で計算が終わります。これは、定義できていそうに見えます。
しかし、「表現方法(10進数表記)に依存しないのか?」や「アルゴリズムで定義するとはなにか?」が少し気になります。
本書では、上記のような曖昧性はなく、より厳密に定義する必要があると考えます。
足し算以外にも、分数や小数、掛け算や割り算も同様に考えていく必要があります。
ZFC公理で証明することは何か?
では、何を証明すればよいのでしょうか?
本書のサブタイトルの通り、ZFC公理を用いて証明を行います。では、何を証明するのでしょうか。
まず、ZFC公理とは、簡単にいうと「集合が満たすべき性質の集まり」です。そして、これは公理なので、当たり前のことで自明である(単純すぎて証明できない)ものです。なお、ZFC公理の中身については、次章で詳しく説明します。
次に、ZFC公理(集合の性質)だけを基にして、自然数や足し算を構成していきます。ZFC公理という自明な性質を基に構成したので、それも正しい定義であるといえます。
※構成したものは、ある意味、自然数や足し算そのものではないですが、同じ構造を持っていることが示せれば、自然数や足し算も正しいと言えるはずです。
つまり、「ZFC公理だけを前提として、自然数や足し算を構成すること」が、本書で証明することの中心です。
※もちろん、掛け算や分数など、他も構成が必要です。また、その他の性質(足し算の可換性、分配法則など)は、別途証明が必要になると思います。
まとめ
今回は、小学校算数を振り返ったうえで、小学校数学では何を証明すべきかを考えてきました。
まとめると、
- 無限には注意が必要であること
- 証明すること=ZFC公理から構成(定義・証明)すること
の2点が重要なポイントです。次章以降では、ZFC公理を導入した後、自然数や足し算の構成に入っていきたいと思います。